ノンフィクションというドラマ

つぶやき

 フジテレビの、「ザ・ノンフィクション」というドキュメンタリ―番組をたまに見ることがある。
 
 以前から、フジテレビの番組欄に、「ザ・ノンフィクション」という文字があるのが不思議でしょうがなかった。ノンフィクションを制作するようなテレビ局ではないと思っているからである。

 しかし見てみると不思議なことにノンフィクション番組なのである。それもかなり硬派な題材をとりあげている。

 去年だったと思うが、60歳近くなるストリッパーの話を前編、後編に分けて放送していた。
 その歳になってまでなぜ踊るのか。星組というファンクラブ。元警察官でスーさんと呼ばれる熱心なファンの孤独な死。本人の肺がんの発症。彼女の復帰を待つファンたち。こんな世界が世の中にはある。

 なにか戦後のどぶ板時代のような話である。問題を提示しているわけではないし、問題が解決されるわけでもない。こういう現実があるというだけの内容で、特別感心するような番組ではないが、NHKのプロジェクトXのような、作られた感動がないのがいい。

 この正月のはじめころ、『クズ芸人の生きる道~57歳 婚活始めます~』が放送されていた。
 
 お笑い芸人といっても芸もなく、パチスロとギャラ飲みで生計を立てるお笑い芸人・小堀敏夫が、老後を心配して金持ちの女性に食べさせてもらおうと婚活に挑むものの、お見合いした女性たちすべてから「お断り」される。結婚相談所の会費も支払えなくなり、窮地に追い込まれていく。

 番組の途中から見たので、彼がどんな生活をしていたのか、どんな性格なのか分からない。運悪く今は人生の苦境にあるが、努力で人生を切り開いていくのではないか、という期待を持たせる。

 彼はラーメン屋の開業を思いつき、ラーメンの修行を店主に頼み込んで承諾を受けるが、修行1日目寝坊して遅刻してしまう。店主は新しい前掛けかなんかを用意して待っていた。寝坊することに同情するようなことは何もない。店主は彼を許さなかった。

 友人に100万円の借金を申し込むとき土下座する。このシーンを見た時、この男は平気で土下座する人間であることが分かった。
 しかし友人は金を貸さない。友人がこの男を本気で殴るシーンがあった。
 この男が並外れてだらしのない人間であることがだんだん分かってきた。

 こんどは出家するという。謙信も信玄もみんな出家しているというのがその理由らしい。どこかお寺を紹介してほしいと頼むが、そんなことは無理だと断られると、頭を坊主にして再度懇願する。
 その後どういういきさつがあったのか、寺で修業を始めるが1日ともたない。 
 
 この番組のナレーションを担当したという女性が、「むき出しで行動する小堀の姿に、『よし、私も頑張ろう』と元気づけられた」とコメントしたという記事があった。
 こんな感想を持つ人がこの番組のナレーションをしている。小堀という男が全く分かっていない。化粧の事しか関心のない女性なのであろう。

 この男は芸人のクズではなく、人間のクズである。私が子供の頃よくいた。
 私が知っていたわけではなく、周囲の大人たちがよく「あれは人間のクズだ」という言葉を口にしていた。
 
 この小堀という男を見ていて、特に土下座のシーンで、「これは昔から聞いていた人間のクズだ」と納得してしまったのである。
 嘘つき、土下座、裏切り、なにをしでかしても懲りない。
 こういう人間が確かにいた。

 以前お笑い芸人の相方であったという人が、「いつか立派な人間になって欲しいです」と述べていたが、この言葉も懐かしい。

 見終わってこの番組はヤラセが多いのではないかと思った。段取りがよすぎるのである。
 しかしヤラセであったとしても、こういうキャラクターを描こうとした番組スタッフが面白い。 
 私のような高齢者がスタッフの中にいるのか、親からこういう人間がいることを聞いていたのか。
 
 世の中にはどうしようもない人間というのがいる。昔ならドラマの主人公にしたかも知れないが今は見捨てる時代である。
 このノンフィクションは、見捨てることでドラマになった。この男に生きる道があったら地上の星になってしまう。。

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