山田洋次監督は今年94歳。若い頃からの顔を知っているからさすがに歳をとられた。
まだ現役で仕事をしている。それもすごいことだが、今でも自分の主張を持っているのがすごい。
「男はつらいよ」で思い出すのは京成電車の踏切の音。師走を控えたシーンで鳴るのがいい。新婚の頃、家内と錦糸町楽天地に観に行ったことがある。正月が近いなと思ったものである。
テレビドラマでの「男はつらいよ」を観ていた。「ダイハツコメディ」での放映だとばかり思っていたが、全くの記憶違い。
テレビドラマでの寅さんはハブに噛まれて死んでしまうが、映画の寅さんで寅さんの最期のシーンというのはあったのだろうか。
何年か前、ある雑誌の対談で、山田監督は寅さんが亡くなるシーンのアイディアを話している。寅さんシリーズが渥美清さんの死亡によって終わった後のことだから、寅さんの死亡のシーンは無かったのであろう。
寅さんは歳をとって題経寺の寺男をしていて、近所の子どもたちとよくかくれんぼなんかして遊んでいる。
あるとき、鬼になった寅が縁の下で「もういいかい」と呼んでいた。子どもたちが「もういいよ」「もういいよ」と何度も返すが、寅が探しに来ない。「寅さん、何してんの?」と子どもたちが見に行ったら、縁の下でうずくまったまま息を引き取っていた――。いい話だと思うがうまい話だと思う。。
浅丘ルリ子さんはこのシリーズに最も多く出演した女優さんだそうである。11作目から出演したということだが、私はこの頃にはこの映画を全く観なくなっていた。
第15作目の『寅次郎相合い傘』でこんなセリフがあるそうだ
初恋の女性を未練たらしく語る中年男が「僕という男はたった1人の女性すら幸せにしてやることもできないダメな男だ」と呟いたことに、リリーが激しくくってかかる。リリーは浅丘さん演じるドサ回りの歌手という設定。
リリー:「幸せにしてやる? 大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい? 笑わせないでよ」
寅:「でもよ、女の幸せは男次第だっていうんじゃないのか」
リリー:「へ~、初耳だね。私いままで一度だってそんな風に考えたことないね。もしあんたがたがそういう風に思ってんだとしたら、それは男の思い上がりってもんだよ」
寅:「お前もなんだか可愛げのない女だなあ」
リリー:「女がどうして可愛くなくちゃいけないんだい」
この映画は昭和48年。この時代の前からこういう考えを持った女性はいたのだろうが、映画のセリフとして登場したのは初めてなのだろうか。この話もなるほどと思うが、うまいセリフ回しである。
寅さん映画を批判することは難しいことではない。私も途中から観なくなったようにあまり好きではない。いわば無頼の人間に人生のいい部分を語らせている。ずるいと言えばずるい手法である。
だが、「最近の日本映画は観る人を暗くさせるものばかりだ。観て生きているのが嫌になるよう映画は作らないほうがいい」という山田監督の言葉は、山田監督の映画人生そのものを言い表した言葉。
いい話を作るのがうまい人である。希望を持って観る人を泣かせるのは簡単なことではない。いつまでもお元気でと思う。



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