家賃1,700万円の超豪華マンションに住んでいた会社経営者が、9万円のアパートに引っ越して、インスタントラーメンを鍋のまま食べている、という記事があった。この人は青汁王子と呼ばれたらしい。
要は破産したということだが、この人に関心があるのではなく、インスタントラーメンを鍋のままじかに食べる、ということが懐かしいのである。
インスタントラーメンが発売されたのは中学生の頃だったと思うが、当時それを食べた記憶は全くない。チキンラーメンという名も知らなかった。
私が初めて食べたインスタントラーメンは、チキンラーメンが発売されてから何年かたった後の、お湯を注ぐだけのものではなく、鍋で茹でて、別添えの粉末スープを入れるものであった。
私はどうもインスタントラーメンが好きになれなかったが、兄は結構好きだった。
アパートの共同炊事場から、煮立った小さな鍋を大事そうに部屋にもってきて、丼に移すことはなく鍋のまま食べる。あの姿が懐かしい。
発売時、インスタントラーメンが安価な食べ物ということはなかったはずである。インスタントラーメンは35円で発売されたが、当時うどん玉は6円、蕎麦屋のかけそば30円、中華そばは35円くらいであった。
母がインスタントラーメンを買ってきたことは一度もなかった。私たちは貧乏であったが、母のお陰で幼い頃から空腹というものを経験したことがない。
兄はどうしてインスタントラーメンを食べていたのだろうか。新し物好きではなかったはずである。
インスタントラーメンが発売された頃、「渡辺のジュースの素」がずいぶんと流行った。食品を「流行った」と言うのもおかしいが、ともかく一世風靡といっていいほど流行ったのである。
粉末になっている「ジュースの素」を水に溶かせばジュースになる。
これも私は好きではなかったが兄が好きだった。いろんな種類を買ってきて飲んでいたが、今思うと結構マニアックな人だった。
当時私は高校生くらいだったが、粉末のジュースというものがあま信用できなかった。人口甘味料など、のちの時代では禁止されたような成分が入っていたのではないだろうか。
以前兄から、カップ麺はインスタントラーメンとして邪道である、という話を聞いたことがある。
破産した人は丼に移すのが面倒なのだろうが、マニアはそういうことではなく、鍋のまま食べるのが正しいインスタントラーメンの食べ方としているのである。
結構深いところのある人だったのだなと、最近よく兄を思い出す。
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