京マチ子さんは大正13年生まれということであるから、映画で活躍した20代、30代の頃は、戦後から昭和30年代の頃ということになる。
美人女優と言われるが、目鼻立ちがはっきりしていて背も高かったから、その当時の日本的美人女優ではなく、外国の女優さんを思わせるようなまぶしい魅力を持った、私に言わせればとんでもない美人女優であった。
この時代の女優さんとして、映画の絶頂期から衰退期を経験した人である。羅生門などで外国の映画祭の女優賞を何度も受賞している。
映画の衰退とともに忘れられたようなとき、テレビドラマに出演することになった。
どんな風になっているのだろうか。どんなおばあさんになっているのだろうか、とその当時私は20代の半ば頃であったが、心配や不安とともにテレビを見た。
どんな番組名だったのか覚えていないが、京マチ子さんがテレビに映った時それは驚きであった。やはりとんでもない美人であったのである。
その時40代の半ばであった。年寄りでもおばあさんでもない、周りにいた若い女優さんがくすんで見えるような、やはりとてつもなく若く美しい女優さんであった。
あの時の京マチ子さんは人生で一番美しい時だったのではないだろうか。4年前に95歳で亡くなられたそうだが、多分、あでやかなまま亡くなられたのだろうと思う。
私はジェームス・スチュアートというアメリカの俳優のファンであるが、彼が若い役柄で二枚目を演じたときの年齢は45歳を過ぎている。
「リバティバランスを撃った男」という映画では、法律学校を出たばかりの青年弁護士の時代から、国会議員を引退する年代まで演じたが、その時で54歳である。
「飛べフェニックス」で若き日のリンドバーグに扮したのは57歳である。人間年をとってもそんなに年寄りにならないものだと、そんなことを考えた。
自分が20代のような若いときは、40代、50代の人をずいぶん年配者だなと思う。60代、70代の人に対してはとっくに隠居しているお年寄りという気しかない。しかし自分が70代などという歳になってみると、70代は若いではないかなどと思う。
最近、年寄り顔ということを思うことがある。私が若い頃、年寄りは皆年寄りらしい顔をしていた。ところが最近は年寄り顔を滅多に見かけないのである。
近所の私の知り合いは皆70歳以上である。誰もが年寄り顔をしていてもおかしくない年齢なのだが、みんなそれなりに、まだ若いじゃないか、という顔をしている。
家内もまだ若いとは思わないが年寄り顔ではない。家内の友達は80歳くらいの人が多いが、それでも年寄り顔だなと思う人がいない。どうしてなのか、私の認知能力が衰えたのか、年寄りばかりで目が慣れてしまったのか。(了)
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