定期検診と交通事故

咽頭がん

今日は防衛医大の定期検診の日であった。いつもの通り血液採取をすませ、医師の診察を待った。

今日はかなり混んでいる。血液検査と検診の結果はいずれも問題なしということであった。今月もやれやれである。

「手術後1年になりますから今回をもって癌の治療は終わります」という医師の話があった。

今までは定期検診ではなくがんの治療をしていた、ということになる。来月からは癌の専門チームが診ることになるという。

その話の通りの、防大内部の担当分掌ということなのだろうが、癌の専門チームと聞くとあまりいい気はしない、と同時に癌という病気はつくづく業(ごう)の深いものだと思う。

1年経っても全快にならないのである。今月末にはペットにも行ってください、と言う。去年の今頃は検査検査の連日で、防大の施設が足りず、他の医療機関にまで出かけていた。

また歩道を歩いている人が車によって死亡する事故が起きた。車は逆走して歩道に乗り上げ、病院の壁にぶつかった、と記事に書いてある。

加害者は71歳の男性。被害者は70代と80代の女性2人である。亡くなられた方はお気の毒であるとしか言いようがない。

加害者に対しても、まさか故意ではないだろうから殺人者のように責めることはできないが、人を死なせてしまった行為を不問にすることはできない。

何年か前の、池袋での交通事故を思う。幼い子と母親が亡くなった。その幼い子の父親と、2人を死なせてしまった高齢の加害者。交通事故によって人生が一変してしまった。

加害者に同情するつもりはないが、高齢の身で服役していることを知った。「目には目を、歯には歯を」、が刑罰の根拠だとするなら、2人の死に対する罰が懲役数年ではあまりに短いと言える。

しかし過失事故に対して死刑を課すわけにもいかない。しかし生じた結果はあまりにも大きい。このような事件が起きるたび、やりきれないものを感じる。

私はアクセルとブレーキの踏み間違い事故を起こしたことがある。結果を先に言うと人身事故にならなかった。

10年ほど前、孫の保育園の運動会に孫たち家族含めみんなで保育園に向かった。
保育園の近所にある病院の駐車場が臨時の駐車場となっていた。

道路から駐車場の所定の地に3回ほどハンドルを切って、駐車しようとしたが、ブレーキを踏んでいるのに車は止まらない。おかしいなと思いながらブレーキを踏み込んだ。
車は勢いよく飛び出し、門柱にぶつかり、ポールをなぎ倒した。助手席にいた婿さんが「お父さんブレーキ、ブレーキ」と言う。「踏んでるよ。止まらないんだ。ブレーキが壊れている」と私は答える。

駐車場スペースの先は掘り起こしたような土であった。それが幸いしたのか、その土にタイヤがとられたらしく、車は大きく車体をよじって隣の車にぶつかって止まった。通行人は誰もいなかった。乗っていた家族に怪我はなかった。ときどき思い出すが、恐ろしい経験だった。

アクセルとブレーキの踏み間違い事故と言われるが、経験者として言うと、踏み間違いをしている気は全くない。

間違いと気がつけば、婿さんの指摘によって気がつくはずである。今踏んでいるのはブレーキだと思い込んでいるのである。だからアクセルを踏み続けてしまう。頭のチェンジが全くできないのである。

経験しない方がいいが、これは経験しないと分からない。後日義理の弟に訊くと、脳から指示が出てしまっているからチェンジできないのだ、と言う。

人通りの多いところであれば、何人かの人を轢いていたかもしれない。運がよかったというのか、ついていたというのか。思い出したくないことである。

駐車場に入ってカーブを切るたびに、何回かアクセルとブレーキを踏み換えたと思うが、その動作をしているうちに錯覚してしまったということだろうか。

普通なら、ブレーキを踏んでいたと思っていても婿さんから、ブレーキを踏んでいない、と注意されたら、「エッ、違う、こりゃまずいな」とすぐに気がついて、足を左に動かしたはずである。

なぜそうしなかったのか。なぜそうできなかったのか。脳の指示はそこまで行動を拘束してしまうものなのであろうか。不思議でしょうがない。あの時の私の頭はなにか金縛りにあったようなのだ。

駐車場の病院は、入院したら生きては帰れない、という噂のある病院である。病院を誹謗する気はさらさらないが、病院と言うところは死と向き合っているところである。

自分のミスを棚に上げた言い方になってしまうが、なにか霊にとりつかれた様な気がするのである。そう思わなければ、あの時の私の精神状態を落ちつけることができないのである。

アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故には、加害者に共通したものがある。みな呆然としているのである。なにかに取りつかれたかのように。

このことをこの稿のオチにするような不謹慎さは私は持っていない。本当にアクセルとブレーキの事故は なにかにとりつかれたような事故なのだ。(了)

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