今から40年近く前のことだが、当時私が経営していた不動産屋の店に、撮影に使用させてくれないか、とテレビ局の係員らしき人が現れた。
すでにそばには役者さんが取り巻きに囲まれて待機している。どうも急きょドラマの筋書きを替えたのか、不動産屋の店先が必要になったようである。
役者さんは今や警察物ドラマでシリーズを何度も繰り返している人気俳優である。その当時は30歳くらいであっただろうか。テレビで見るのとは違い、かなり神経質そうな人であった。
もちろんお断りした。テレビ局の人は、当然承知してくれるもの、という感じであったが、私は生来のへそ曲がりである。テレビドラマなどに自分の店を使ってほしくない。
きのういつもの公園に出かけたが、いつも歩くコースに何人もの撮影の関係者のような人たちがたむろしている。テレビドラマの撮影のようである。
私はそんなものに関心はないからいつものように歩き始めたら、そのスタッフらしき人が、ここを歩かないでください、と両手を挙げてとうせんぼをする。
人を制止するとはどういうことか、と尋ねると、制止したのではなく誘導したという。私は無視して行きたい方向に歩いて行った。
その後大勢の関係者は場所を変えて、公園内で一番人が集まるところで撮影を続けていた。
昼になり、弁当を食べているところに係の人が現れ、写り込むかもしれないがよろしいか、と尋ねてきた。
写り込んだら肖像権の侵害になるということなのか。そこまで神経を使って撮影をしているなら、こんな土曜日の桜満開の時に人々の動きを制してまで撮影することはないと思うが、撮影は延々と続いていた。
写り込んだら申し訳ない、ということを言いに来たのではない。写り込むからちょろちょろ動くなと言うことを言いに来たものと思う。
彼らにいくら注意しても聞く耳を持たない。テレビや映画の撮影と言うと何か特権意識でもあるようだ。
公園の事務所に苦情を申し入れた。自分たちが管理している公園が、テレビドラマの舞台になるということがうれしいようであった。まったく苦情に対する反応がない。ただ黙って聞いているだけである。
桜が咲き、チューリップが開き、春満開の時であるから穏やかに心やすけくと思うが、人間怒る時は怒るべきである。(了)
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