チラシ寿司と歌謡舞踊

つぶやき

 家内は今日ヨガ教室。このところ熱を出したり用事があったりで、教室に行くのは久しぶりのはずである。

 出かけた後食卓を見ると、おひつに入ってチラシ寿司が用意してあった。

 おひつの蓋を開けるとほのかに酢の香り。錦糸卵の黄色、絹さやの緑、海老の朱色、干しシイタケの茶色、鮮やかな紅ショウガ。

 チラシ寿司は春の食べ物。私の大好物である。手は合わせなかったが、ありがたい。
 
 お昼にと用意してくれたものだが、そこまで待つのは無理。11時過ぎには食べ始めてしまった。

 味噌汁も用意してあったが、せっかくの春景色のような微妙な味わい。お茶だけで食べることにした。

 テレビをつけると三波春夫さんの古い映像が出てきた。なにか講談師のようにしゃべりながら歌を歌っていた。

 昔、三波さんの「チャンチキおけさ」を聞いて、あまりの美声にびっくりしたことがある。

 歌謡曲が日本の歌文化をダメにしてしまったと常日頃口にしている自分だが、そんな歌謡曲を口ずさんでいることがある。

 流行歌というものはそういうものなのだと思う。世は歌につれるものなのである。

 三波さんの舞台を見てなんとなく思い出したことだが、私たち夫婦の仲人をしてくれた小学校時代の女の先生は、50歳を過ぎて歌謡舞踊というような踊りを習っていた。

 歌謡曲に日本舞踊を振り付けして踊るものだが、その発表会に呼ばれてしまった。歌謡舞踊。見たことはないが、見ないほうがいいという直観があった。

 先生は芸者の格好をして、「江の島エレジー」に合わせて何人かの人と一緒に踊っていた。

 私はこんな人に教わっていたのかと情けなくなった。 

 家内に「あなたもやってみたら」とはもちろん言わないが、このような踊りをやりたいと思う人と、絶対やりたくないという人の違いはなんなのかと思う。

 難しい言い回しになるが、正統的な日本舞踊なら芸者姿もいいのか、菅原都々子の歌う「江の島エレジー」の芸者姿だから低俗なのか。

 三波さんは、村芝居か歌舞伎座での芝居か、という境界で生きた人である。

 三波さんの歌舞伎座公演には反対者が多かったという。たかが歌謡曲歌手が歌舞伎座公演とは身の程知らず、ということだったらしい。

 しかし三波さんの圧倒的観客動員力に歌舞伎座も敗けたようだ。考えてみれば歌舞伎もその昔は河原乞食ではないか。エラそうなことか言える育ちではない。

 三波さんの歌舞伎座公演は20年に及んだ。穏やかな顔つきの人だったが、ものすごい闘志を秘めた人だった。
 一介の浪曲師あがりに歌舞伎座がひれ伏した。 

 でも例えば「江の島エレジー」でも「芸者ワルツ」でも、それに合わせて踊ることは舞踊でもなんでもない、みっともないことととしか思わない私の考えはなんなのかと思う。

 私の考えは偏見かもしれないが、私が教わった学校の先生がそんな踊りをすることは、どう理解しようとしても間違っている。私の考えは正しいと思う。

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