よくネットで著名人の晩年の記事を読む。そのせいで家内に、あの人は何歳で死んだ、あの人はがんで死んだ、などと言う話をすることになる。そのたび家内は、暗い話ばかりするのはよくない、と私をたしなめる。
深夜のラジオ番組で三波春夫さんの特集をやっていた。浪曲の出身ということと、あの美声がどうも一致しないが、文句なしの美声である。
71歳の時に前立腺がんを発症したが、かなり進行している状態で見つかったらしい。77歳で亡くなられているが、死因は前立腺がんとされている。
手術はせずに化学療法だけだったらしい。
俳優の小倉一郎さんはステージ4の肺がんを経験している。
「ステージ4の肺がんで余命宣告を受けるも奇跡的な回復、小倉一郎 今日生きている、それ以上望まない」という記事があった。
小倉さんは私より4歳若い。昔、確か「それぞれの秋」という題名のテレビドラマがあったが、その時初めて見た俳優さんである。
気弱そうな青年を演じていたが、それまで若い役者と言えばハンサムで、格好良くて、男らしいというものであった。
小倉さんはそれとはまったく正反対のキャラクターを演じていたが、それがなにかこれからの若い人の生き方のようなものを暗示するものでもあった。
小倉さんは最初の病院で肺がんを告げられ、1,2年と余命まで言われている。
その時の担当医はモニターに目をやったまま、一度も小倉さんと目を合わすことなく、こう口にしたそうである。
「がんです。ステージ4の肺がん。このレントゲン画像を見てください」 「手術も、放射線治療も、抗がん剤も、完治は見込めません」。ひどい医者である。
小倉さんは医者を変え、がん専門病院で奇跡的回復をしたらしい。ステージ4のガンが治る。多くの人の希望になる。
加瀬邦彦と言う人を知ったのはグループ・サウンズ華やかな時ではなく懐メロにおいてである。
食道がんを発症してその後咽喉がんになり、のどの全摘をしている。自ら、呼吸のための管を詰まらせて自殺したらしい。がんで亡くなられた人の話で私にとって最もつらい話である。
歌手の人が歳をとって何か病気を発症すると、遺書のような歌を発表することがある。美空ひばりさんの「川の流れのように」や石原裕次郎さんの「我が人生に悔いなし」という歌はそういう歌になる。
三波さんも晩年に「明日咲くつぼみに」という歌を歌っている。昨夜のラジオで初めて聞いた歌であるが、声を抑え語りかけるように歌っている。作詞は永六輔さんであったがなかなかいい歌である。
あの華やかであった三波さんの晩年の生活がとてもしみじみとしたものであったように思われる。
ジャーナリストの小倉智昭さんは膀胱がんから現在は腎盂がんを発症されているらしい。「かなりあぶない状態ですよ」と出演したテレビ番組で話している。
現在の心境について、「昔はポックリ逝くのが理想だった」としつつ、「今思うと、がんの方が“ゴール”が見えてくるじゃない。準備ができる」と考え方を口にした。
ポックリがいいのか、死を意識して死んでいくのがいいのか。まだ私には分からないが、死の準備などしたくない。
また暗い話ばかりして、と家内に怒られそうであるからやはりがんの話はしないほうがいいが、小倉一郎さんの話は明るいがんの話であった。(了)
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