以前仕事をしていた時、ある私鉄の不動産会社と取引をするようになった。
この不動産会社の営業マンは、全員が歩合制の中途採用者で、年齢も結構高い人が多かった。以前どんな仕事をしていた人なのか、はっきり前歴を話せるような人はいなかった。
中途採用者ばかりであったのは、新卒者を教育してちゃんとした社員に育てるという考えが、この会社には全くなかったからである。
管理職の社員は鉄道会社本社から派遣されている。もともと鉄道に入社したのに不動産などの仕事に追いやられたという気持ちを持っているから、営業マンなどともうまくいかない。
営業マンたちも会社のために働こうなどという気は全くなく、いかに会社をごまかして自分のフトコロに金を入れるか、ということしか考えていない。
もちろん中には馬鹿正直な人もいたが。
傍から見れば鉄道会社の不動産部と名乗っているのであるから人は信用する。しかし会社の実体はそんなものであった。
非常にタチの悪い営業マンが多かった。会社から見ればみんな途中採用の、どこの馬の骨とも分からぬ社員であるが、それでよしとした。
歩合制の社員は、社員であって社員にあらず、という考えを持っていたようである。
私はこの会社と付き合うことによって何人もの悪い人間を知った。ハンサムで人当りのいい人間のやる悪は本当にタチが悪い。あれでは素人のお客さんはいいようにされてしまう。世の中には根っからのワルがいることを知った。
名前の通った会社だから安心だというのは、劣悪な会社と取引するのと同じくらい危険なことである。
結局この会社は解散することになった。大手の鉄道会社が不動産部を切り捨てたのである。沿線に多数の顧客がいたはずだが、これらの客のニーズに応えることなく、廃業してしまった。
世の中は看板では分からない。大手私鉄の不動産部だからと手放しで信用してはだめということである。要はどんな人間が働いているかということである。(了)
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