「お部屋の用意ができました」とメールが家内のスマホに入る。
「お部屋の用意」と言ったら旅館かホテル。まさか密会の宿。しかし女房の歳からしてそんなことはありえず、日本一周クルージングのキャンセル待ちへの運営会社からの連絡であった。
「キャンセルが出ましたのでご連絡します」では、他人が一度手を付けた物を買わされたようで感じがよくない。言葉も使いようだが、しかし「お部屋の用意ができました」とは上手いことを言う。
「日本最大の豪華客船による日本一周13日間の旅」というキャッチコピー。9月の下旬から10月初めにかけて、横浜から高知、鹿児島、宮津、金沢、室蘭、横浜を回る。
何ヶ月か前、予約受付開始と同時に申し込みをしたがすでに満室。そんなに一瞬で満室になるものかと不思議に思ったが、仕方なくキャンセル待ちとなる。
予約の時期から旅行日までかなりの期間があるからキャンセルも多いだろうと思っていたら意外に早く、「お部屋の用意ができました」。どっかで聞いたことがあるなと思ったら「お風呂が沸きました」。
同じような船旅を70歳のときにしたことがある。終わりの頃は床が揺れているようで気分がよくない。大型船であるから船酔いということはないが、地面が恋しくなった。今度はそのときより何日か日数が多い。
前回はまだバリバリの現役であったから費用などには無頓着であったが、今回は無職の身。こんな贅沢をしていいのだろうかという旅行代金。現地観光オプションや食事のときの酒は別料金。
予約のときは、「まあいいか、エイヤーッ」とその気になったが、正直多少迷う。「お金はあの世に持っていけない」という言葉が頭をかすめるが、少しでもお金を持って安心していきたいという気もある。何が安心なのかは分からない。貧乏性とはそういうものである。
どうも足の状態がよくなるとも思えない。そういうことでは船旅は便利であることは確か。観光巡りしたくなければ、船から降りずに寝ていればいい。
女房と人生最後の旅になるかもしれない。女房に豪華な思い出を残すことも大事である。でも女房は、私のいない豪華な海外旅行の思い出が多い人である。日本一周など大した思い出にはならないかもしれない。私は働くばかりで一度もヨーロッパに行ったことがない。
旅行期間と寄港地を見ると、船に乗っている時間が長いのではないかと思われる。
前回もそうであったが出航は夕方である。海上から富士山を見ることはできなかった。
桜島を見たことはないが、初めて桜島を見るのは船からということになる。
いつでも見ることのできる風景ではない。人生いい土産話になるだろうか。
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