「♬ 残り少ない 日かずを胸に 夢がはばたく 遠い空 ♬」と歌う歌は、舟木一夫が歌った高校三年生。この歌がはやったとき私は高校2年生だった。
残り少ない日かずでも、夢がはばたくのであるから、若いということは素晴らしい。
言うまでもないことだが、高齢者にとって「残り少ない」ことにいいことはない。高齢者は残り少ないものばかりである。
残り少ない歯を抜くことになった。義歯を支えていた歯がグラつくようになり、歯茎に炎症を起こしてしまう。
医者は抜きましょうとは言わない。「そうですね。総入れ歯の方が楽になります」。医者から結論は出さない。
これで上の歯は全部ないことになる。総入れ歯。この私が総入れ歯。情けないとしか言いようがない。
総入れ歯と言えば昔東京の下町に住んでいたとき、隣のおばあさんが共同洗い場で入れ歯を洗っていたのを思い出す。子供の頃は不思議な光景だったが、今思うとなんとも汚らしいことであった。
どういうわけか私の歯は上はダメであるが、下の歯には義歯は1本もない。
下の歯の方が磨きやすいということがあるのかもしれないが、今まで上も下も丁寧に磨いてきたことがない。
歯科医は、「あなたのお歳で下の歯に1本も義歯がないというのは素晴らしいことです」と言う。下にあったって上が総入れ歯であれば自慢できるような話でもない。
サザエさんに出てくる年寄りの口元になってしまう。でも噛めないことの不便さは、歯が無くなってみないと分からない。そういうことでは入れ歯とは有り難いものである。



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