昨夜息子から家内にメールがあり、10時からNHKで、「感想戦 3月11日のマーラー」という番組の放送があるという。
「感想戦」とはどういうことなのか。分からないまま家内に録画を依頼した。
正直なところあまり見る気はなかったが、せっかくの息子からの連絡。見ない訳にもいかず、今日、相撲放送も終わり、酔いも回った中で、テレビのハードディスクのスィッチを入れた。
14年前、東日本大震災が発生した夜、すみだトリフォニーホールで行われた新日本フィル演奏会のドキュメンタリー番組であった。
メインの曲目はマーラーの5番の交響曲。
1800の入場券はすでに完売していたが、当日は105人の聴衆であったという。
5番の交響曲全曲を放送することではなく、当日の演奏会で演奏者、指揮者、観客、楽団関係者たちにが考えたり感じたことを語らせることによって、大震災の夜に行われた演奏会を振り返ろうとするものであった。
番組案内には、「悲しみ、祈りが込められた演奏は奇跡の名演と呼ばれます」、とのコメントがあった。
感想戦とは将棋などにおいて、対局終了後に、開始から終局まで、またはその一部を再現し、対局中の着手の善悪や、その局面における最善手などを検討することを言う。
演奏会当日の思考や行動を「感想戦」のように振り返るということだが、果たしてどんなものだろうか。
「様々な思いを抱える証言者たち」として演奏者たちの言葉が語られる。
若いホルン奏者は、大槌町にある親戚の家が津波に巻き込まれたかもしれないと不安を語り、トランペット奏者は自分の音がこの曲の始まりであることから、その緊張感を語る。
女性ビオラ奏者は第4楽章で今まで体験したことのない感動の中で演奏ができたと語る。
会場の近くに住んでいるという女性の観客は、あの日、心から音楽を楽しんだことに罪悪感を抱いた、と語る。
そして指揮者は音楽の力というものを語った。
この番組は2012年に放送された番組のリメイクらしい。東日本大震災の翌年にこの番組が放送されていたようである。
14年前の映像に映っていた演奏者や観客などが、リメイクの場面にも登場していたが、みな揃ってあの日の演奏会の特別な感動を語る。
しかしこれほどのエピソードを盛り込みながら感動が伝わらない。
「たくさんの言葉や映像の中から、各展開にふさわしい部分を抜き取り、さらにナレーションで作り手の目指す方向へと観る側を誘導する。うつむいていたら、悲しい。目をつむっていたら、物思いにふけっている」
すでにこの番組を適格に批判する投稿があった。12年に放送された時のものらしい。
「あの日、心から音楽を楽しんだことに罪悪感を抱いた」と聴衆の女性は語ったが、本当だろうか。罪悪感を抱いたというなら、罪悪感などというものは軽薄なものである。
見ていて耐えられなかった。これは作りごとである。それも下手な。
「ドキュメンタリーは嘘をつく」。NHKは恥もなくこういうことをやる。
このような稚拙なドキュメンタリーに誘導されることはないが、こんな番組で視聴者は感動すると考えているNHKのレベルは本当に低いものだと実感させられた。
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