昨日3月20日は、地下鉄サリン事件が発生してから30年、と新聞にあるが、あの事件は「発生」したものではない。言うまでもないが、オウム真理教が起こした無差別テロ事件である。
14人が死亡し、約6,000人が負傷した。負傷者の後遺症は今でも続くという。
地下鉄サリン事件の前年6月に松本サリン事件があった。長野県警はサリンの被害者である第一通報者の河野義行氏を重要参考人とし、執拗な取り調べを行った。新聞も、被疑者はある有名な植物学者の孫とかそんな言い方で報道した。
坂本弁護士殺害事件は平成元年であった。教団信者のリンチ殺害は平成元年から何度も行われている。
なぜオウム真理教の実態を把握して、松本や地下鉄での被害を未然に防ぐことが出来なかったのだろうか。
こんな報道がある。オウム真理教に当初から疑惑を感じ、実際に批判的な報道を行っていたのは、ジャーナリストの江川紹子氏の他一部の週刊誌だけで、新聞、テレビは誰にでも分かるオウムの怪しさと危険性を見て見ぬふりを続けていた。
TBSには、ビデオ事件と呼ばれるとんでもない不祥事があった。
TBSはオウム真理教を批判した坂本弁護士のインタビュービデオを放送前に上祐や、オウム真理教の顧問弁護士に見せたばかりか、上祐らの脅しに屈し放送をやめてしまう。
内容を上祐らから聞いた麻原は、坂本弁護士が自分にとって危険な人物と判断し、坂本弁護士殺害を計画する。実行役の村井や新実は、妻や1歳の子供まで殺害してしまう。
TBSの不祥事というのは、このことを6年以上も隠蔽し続けたことである。
インタビュービデオを上祐らに見せたことを坂本弁護士にも伝えなかった。そのために坂本一家は殺害されたとも言われている。「報道のTBS」というところがこんなことをしていたのである。
事件当時警視総監であった井上幸彦氏のインタビュー記事がある。氏は現在87歳。
井上さんが警視庁トップに就任したのは1994年9月。すでに教団は坂本弁護士一家殺害事件や松本サリン事件などの凶悪事件を起こしていた。
「事件が起きていて会議で報告があるけれども、その時にオウムについて『あの団体が怪しいんだ』というような状況は把握できていない」
「私が総監になった時も前任者から、『これからオウムと戦うことになるよ』というようなものはなかった。宗教に対する特別な見方があって、その宗教団体が殺人事件まで起こす、テロ行為を起こすような状況は全く想定外だった」
どういうことかと思う。いろんな凶悪な事件が起きていて、オウムが関係していることはすでにジャーナリストや弁護士たちは把握していたというのに、警察の上層部にはその認識が全くない。
地下鉄サリン事件当日の警視総監の話はさらにひどいものである。
「総監室に入って情報を取ってもなかなかはっきりしたものが出てこない、何が起きたのか分からない」
「ただ霞が関だけではなくて、あちらこちらの駅で、今負傷者が外に出されています、という情報が入ってくるだけでなにも分からない」
お歳を召された元警視総監の、若かりし頃の懐かしい思い出話であっては困る。
警察はかっちりとしたところだと思うが、組織そのものに欠陥もあるようだ。
宗教団体への介入、警察による弾圧、信教の自由の否定、人権侵害。
一つ間違えれば責任を取らされることになる。こんな判断が警察トップにあったであろうことは容易に推察できる。
「宗教に対する特別な見方があって、その宗教団体が殺人事件まで起こす、テロ行為を起こすような状況は全く想定外だった」
サリン事件の前にあれだけの事件を起こしていたのに、想定外とは開いた口がふさがらない。
いつも人々は想定外で死んでいくことになる。
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