頭頚部外科

咽頭がん

 高校時代の友人がコロナで亡くなった。
 久しぶりに話をしようと携帯をかけたが、「現在使われていません」というメッセージが流れる。そんなはずは、と何回か掛けるが結果は同じ。

 自宅に電話をすると奥さんが出て、7月20日に亡くなりました、と私に伝えた。コロナに感染して1週間のことだったという。奥さんも感染して臨終にも葬儀にも立ち会う事ができなかったようだ。何より本人が悔しい思いをしたと思います、と話してくれた。

 彼は5年前咽頭がんを発症した。電話があり、癌になってしまった、と心配そうに語っていた。その後何回か連絡を取り合ったが、いつも元気そうであった。

 今年、今度は私が喉頭がんになった。それまでのどの癌に喉頭がんと咽頭がんがあるということを知らなかった。彼に、私も癌になってしまった、と話すと、のどの癌など大したことはない、直るよ、と励ましてくれた。その時彼の癌が中咽頭がんであることを知った。放射線治療をし、今年で5年を経過することになる、と喜んでいた。

 彼は大学に進学しなかった。長らく労働組合運動に身を置き、その後は出版会社を起した。作家志望でもあった。高校、大学時代を通じ私が最も影響を受けた同級生であり、尊敬する友人であった。6月にあった着信通知をこれからも残そうと思う。

 今日は喉頭がん手術後5カ月目の定期検診であった。前回と同じで血液検査を受けることから始まったが、大変な混雑で血液検査に1時間半待たされた。
 
 検診の予約時間は11時であったが、診察が始まったのは12時半である。予約に何の意味があるのか。私の前になぜ予約者がいるのか。1カ月も前に予約した時間である。その予約をしたのは私ではない。医師が、じゃ11時でいいですね、と決めたものだ。血液検査を合わせて3時間待たされたことになる。

 診察は5分とかからなかった。再発はしていません、と担当医師は言う。血液検査も異常ありません、と言う。考えてみるとこの病院にかかり始めて以来、病状の説明、診療計画、手術の内容、術後の経過観察、などについて説明を受けたことがない。検査が続いた後の病名の告知だけである。

 入院の際私は当時ひどい便秘をしていたので個室を希望したところ、上席の医師が、当病院は普通の病院と違ってホスピタリティがどうのこうので、個室の希望には応じられない、という返事であった。病状の説明をしないこともホスピタリティとやらに関係することなのであろうか。

 この大学病院には頭頚部外科という診療科はない。耳鼻咽喉科と口腔外科となっている。喉頭がんは耳鼻咽喉科の担当である。

 私が喉頭がんになったから気づくのかもしれないが、癌について調べようとすれば頭頚部外科という文字がまず目につく。ほとんどの医科大学では頭頚部外科が喉頭がんを担当する。
 食道がん、喉頭がん、舌癌などは部位が近いことから重複癌として発症することが多いらしい。それに対応するためにも頭頚部外科という考え方は必要であろう。
 この病院に不信があるわけではないがかかり始めたころ、中耳炎、蓄膿症などを診察する科が癌の治療などできるのか、と心配になった。癌患者の気弱さは、どんなことにも暗く反応するものである。

 とにかく定期検診が無事に終わった。次回の検診は担当医は立ち会わず、上席医師や他の研修医が行うという。以前もそのようなことがあった。違う目で確認するということなのだろうか。これをクリアすれば以後定期検診は2カ月に1回ということになるらしい。

 今日初めて担当医が私の首のあたりを触診した。
 にわか仕込みの知識によれば、喉頭がんの転移はまず首のリンパ節だという。いつもなぜ首の触診をしないのだろうかと不思議に思っていた。今までしたことのないことをやっている。こりゃ何かあるな、と心配が募る。

 「先生が首の触診をするのは初めてですね」とまた余計なことを言ってしまった。医師はそれを承知しているのか、しかし何も言わなかった。この病院で医師が何も言わないということは大丈夫ということなのだ。そう自分に言い聞かせた。

 帰り際、再発の確率はそれほど高いものではないが、やはり1年は慎重に経過を診る必要がある、と医師は言う。完治への緒についたということだ。気を抜くのはまだ大分先のようだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました