非正規雇用

つぶやき

 東京の大手町や渋谷、新宿の建設ラッシュを見ると、日本の衰退などと言う言葉は思いもつかない。

 外国からの旅行者も、日本の大都市の、整然として清潔な街並みに驚くという。日本は豊かな国である、との印象を持つようである。

 1億円を超えるマンションや何千万円もする高級車が売れ、年寄りは自宅に数千万円もの現金を置いている。もちろん国民全部ではないが、貧しい国とは言えない。

 最近の言葉で言えば分断ということであろうか。豊かな者と貧しい者がはっきりとしてきた社会になった。

 日本の働く人のうち、何割くらいの人がいわゆる非正規雇用者なのだろうか。ネットで調べてみようと思ったが、非正規雇用者の定義によっていろいろ数字が変わってくるので面倒になってやめた。

 1割とか2割という、そんな数字ではなさそうだ。不本意非正規社員という呼称もあるという。

 非正規雇用について、働く時間を選べるとか、好きな時に働けるとか、働く者にもメリットがあるかのような説明を見かけるが、それはこじつけであって、雇用の安定しない生活など誰が好んで求めるだろうか。

 仕事があるときに人を雇い、仕事が暇になったら辞めてもらう、という雇用は、雇用者にとって願ってもない雇用形態である。

 日本の企業は長い間終身雇用であった。お茶汲みの女性から重役まで正規雇用だったのである。そんなことをやっていられないような時代になって、政府は簡単に非正規雇用を認めた。企業あっての政治であることを痛感させられた。

 非正規雇用は民間企業などにおける雇用と理解していたが、公務員の世界もそうらしい。考えてみればそうなっても当然のことであった。景気が悪くなって税収が落ち込めば、自治体の財政は簡単に悪化する。

 公務員たちに節約とか効率とかいった意識はないだろうから、再建とか立て直しとかいうことではなく、ストレートに破綻である。規模の小さい地方の自治体などはすでに破綻している。

 以前から聞いてはいたが、地方公務員の非正規雇用はすでに定着しているようだ。学校の先生まで非正規雇用として採用しているらしい。「本当に大丈夫か」と声をかけたくなるような実態である。

 しかし地方自治体の職員に、非正規雇用者が数多く採用されていることは、正直驚きであった。

 アルバイト的な単純作業ではないらしい。図書館職員は2割が正規で8割が非正規だという。

 生活困窮者の自立支援、消費生活相談、家庭内暴力相談という窓口機関の大半も、非正規雇用者によって行われているという。

 非正規雇用者の人たちに、そんなことまでの負担をかけていいものなのだろうか。児童相談や家庭暴力相談は、自治体が総力を挙げてでも関わらなければならない問題ではないだろうか。

 非正規雇用は何よりも賃金が安いことである。雇用者の利益を確保するため働く者に貧しさを押し付ける制度である。いい制度であるはずはない。

 こんな制度を営利目的の企業だけではなく、公共である自治体までが採用していることは、日本社会の衰退を表すとしか思えない。

 自治体が非正規雇用者を採用するということは、非正規雇用者に貧しさを強いて、市長や職員たちは自分たちの給料を確保する、ということである。やはりおかしい。

 日本の社会は非正規労働者を利用して今後も維持しようとするだろう。この制度は企業にとってはまさに禁断の蜜の味である。

 そうであれば昔の囲い込みではないが、非正規労働者を供給する仕組みが必要なはずである。みんな豊かになっては非正規労働者がいなくなってしまう。

 給料は安くして、イヤなら他に働きたい者はいくらでもいるよ、という社会にしておかなければならない。

 超高層ビルなどを見ると確かに儲けている人はいるなと思う。
 リーマンショックを機に企業は内部留保に熱心になった。「会社に十分な貯えがなければ雇用の安定を図れないではないか」、という脅し文句でその正当性を主張してきた。この言葉に社会は弱い。

 そういえば労働者という言葉をあまり聞かなくなってきたように思う。国鉄解体の頃からであろうか。非正規雇用制度が存在する限り給料は上がらない気がする。(了)

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