除斥期間の主張は正義に反する

つぶやき

 明らかに憲法に違反する法律によって生じた国の賠償義務を、国は時効消滅を理由に拒否してきた。

7月3日、最高最高裁判所は、精神障害や知的障害のある人に子供を作らせないために、強制的に不妊手術をすることを定めた旧優生保護法憲法違反である、と初めて判断を下し、「国が時効消滅(除斥期間)を理由に請求権消滅を主張すること自体が権利の乱用だ」と指摘した

 岸田首相は17日、この判決を受け、原告を含めた当事者らと首相官邸で面会し、「政府の責任は極めて重大であり、心から申し訳なく思う」と直接謝罪した。

 ほんの少し前まで、「すでに除斥期間は経過しているから国に責任はない」、と主張してきた国の内閣総理大臣である。
 裁判所の判決の前に、行政として事の是非を判断し、対応すべきではないか。

 優生保護法は、要は身体障害者や知的障害者の子孫を残さないことにする法律である。優生保護法の条には、不良な子孫」という言葉が使われている。それをもっていかなる法律であるかが分かるというものである。

 半世紀にもわたって不良な子孫の出生を防ぐため」障害者に対して不妊手術が強行され、25,000人もの人が生殖能力を奪われた。

 優生思想。「優れた人間を作って社会をより良くする」という考え方は古くからあった否定されるべき考えではないが、しかし優れていない人間を排除する思想につながるものである。

 ナチスドイツによるユダヤ人虐殺を挙げれば、その危険性は十分判ることである。
 201626相模原市にある県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が殺害された事件。
 犯人は「生きている価値がない」と言って障害者を殺害していった。

 優生保護法の非人道性を指摘することがこの稿の目的ではない。 
 基本的人権が規定された新憲法下において、なぜこのような法律が制定されたのか。なぜ違憲が疑われることもなく施行されたのか。

 意外にも優生保護法の制定は、戦前の産めよ増やせの国策によって女性の健康が損なわれたこから、旧社会党の女性議員たちの熱心な関与があったようである。

 しかし女性議員でも、不良な子孫の出生を防ぐ」という考えや不妊手術の強行が基本的人権に反するという理解至らなかったようで、強制不妊手術などを当然のこととして容認したようだ。

 強制不妊手術は憲法に違反するとして、国家賠償請求訴訟が提起されたのは2018年になってのことである。宮城県の女性が初めて強制不妊手術の非人道性を訴えた。

 以後各地で国家賠償請求訴訟が提起されたが、原告らは優生保護法の違憲性をとなえて賠償を請求しているのに対し、国は優生保護法の違憲性の主張に対する反論一切行わず、民法724条後段に定める時効期間(除斥期間)が経過していることのみを争っている。

 2024の時点で、国は、高裁における国側敗訴の判決全てを不服として上告している。国民のための判決がなぜ不服なのか。

 今回の最高裁大法廷の判決は、各地の高裁判決に関して上告がなされた5件の上告について統一的な判断をしたものである。

 私は国の賠償責任にいて、国は消滅時効の主張はするべきではないと考えている。ここでは除斥期間と言っているが、除斥期間と消滅時効は同じ意味と理解していい。
 
 民事法の法理は、対等な市民間の争いにおいて適用されるものである。
 その法理を、国民と国との争いに適用すべきではないことは自明のことと思うが、国は常に民事訴訟の一方の当事者として、消滅時効の主張をして賠償責任が消滅していることを主張する。国を相手にする訴訟は民事訴訟ではない。

 国民に対する国の責任時効で消滅するのではない。国には上訴権もないとするべきある。国民たった1人の戦いにおいて、相手が国では幼児が相撲取りに挑むようなものである。

 今回の判決で大法廷は優生保護法を、
 「意に反して生殖能力を奪う手術を課した」
 「合理的な根拠なく障害者らを差別的に扱った」などと批判し、
 「立法時点ですでに違憲」
と初めて明示し、法をつくった国会の責任もあると断じた。
こんな大事なことが、何で今頃まで解決されなかったのか。


 そして、国が除斥期間を理由に請求権消滅を主張すること自体が権利の乱用だ」と指摘した国が除斥期間を主張することは正義に反する」のである。

 国はなぜこのように当たり前のことを主張するのであろうか。
 国は優生保護法の責任を、他人の家の窓ガラスを割った賠償責任と同じと考えているようだ。
 被害者の苦しみに思いを馳せることもなく、いけしゃあしゃあと時効消滅を主張する。

 国が除斥期間を主張することは、「恥を知れ、恥を」ということである。
 三原じゅん子という議員が、国会で野党に対してこの言葉を言ったことがあるが、多分「八紘一宇」と同じで、誰かに教えてもらった言葉であろう。この言葉の重みを知らないようだ。

あらためて、国ともあろうものが大罪を犯した上になお時効を主張する。「恥を知れ、恥を」
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