長生きするのも芸の内

つぶやき

 「長生きするのも芸の内」とよく聞くが、本当のところどういう意味なのか分かっていない。
 なんとなく、商売でもなんでも長く続けていることは大したもんだ、というふうに理解している。

 不動産屋を始める前に、町場の不動産屋とはどんなものなのかと、知り合いの不動産屋の社長に頼んで働かせてもらったことがある。

 その不動産屋さんで働き始めてからしばらくして、社長さんが斡旋したという飲み屋に行った。そこは客が5人も座れば満席になるような狭い店であったが、そこの女将が、「お宅の社長さんに、この店は借りないほうがいいと言われたんですよ」と私に言った。

 「不動産屋が紹介して、借りないほうがいい、というのも変な話ですね」と私が言うと、女将は「だから私はお宅の社長さんを信用したんです。あの方は本当に正直でいい人です」と言う。

 この社長さんと何度か一緒に仕事をして、この人は全く仕事ができない人だと分かった。
  
 機会を見て「どうして社長さんは紹介する物件の悪いところばかり言うのか」と尋ねたことがある。
 すると社長さんは、「そう言うと客が信用するのだ」と言う。
 まあ、そんなところだろうが、それにしても能がない。

 ある時、社長さんがマンションの売買を斡旋することになった。
 売主はそのマンションに数部屋持っている人のようで、売ることにした部屋に付属している納戸の部分は自分が使いたいので、売買の対象にはしないでほしい、という事を社長さんに告げていた。

 それからまもなく買いたいという人が現れ、1週間後に現金決済で即日引き渡しという約束になった。

 社長さんは、売買の対象に納戸部分は含まれない、という説明を買主にしていない。

 契約当日、当然のごとく納戸の件で紛糾した。買主は、マンションの納戸というのはその部屋に付属しているもので、専有部分の売買と共に当然付随するものだと主張する。

 売主は、売却を依頼したときこちらの社長さんに、「納戸は売らないで自分が使用する旨伝えてある」と説明する。
 社長さんは同席しているが何も説明しない。「お二人で話し合ってください」とでも言ったのか、そのうち席を立ってしまった。

 売主と買主の話し合いは言い合いになっている。
 しばらくして社長さんは席に戻り、「まあまあ、大の大人がそんなに言い争わなくたっていいじゃないですか」と両者をたしなめた。

 すると売主が「なに言ってんだ。こういう問題は事前に調整しておくのが不動産屋の仕事ではないか、あんたがやるべきことをやっていないからこんなことになるんだ」と社長さんを怒鳴りつけた。売主さんは地元の人なら誰でも知っている温厚な人である。

 お人好しではすまない。売主の言っていることが正しい。
 こういう社長さんでも商売を続けている。
「長生きするのも芸の内」どういう意味なのか。

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