近所の奥さんの死

つぶやき

 いつも我が家の前を通るご夫婦の奥さんが亡くなられていた。 
 親しい人ではなく知り合いでもなく、家の前を通るご夫婦というだけの人である。 

 奥さんが昨年の秋頃から杖をついて歩いている姿を見かけたが、今年に入ってからはご主人だけが一人で買い物などに出かけていた。奥さんはどこか施設にでも入られたのではないかと思っていたのだが。

 我が家の前を通るご夫婦はたくさんいるが、このご夫婦はちょっと普通とは違う。ご主人はどこかの国の日本大使館に勤めていたらしいという話を家内から聞いたことがあるが、大使館勤めであったからなのか、夫婦そろってひときわ雰囲気の違う人達であった。

 奥さんはいつもおしゃれであったが、華美ではなく上品さがあった。二人そろってインテリジェンスを感じさせる人たちだった。二人で歩いている姿を見ていると「エスコート」という言葉を思い出す。そういう感じのご夫婦だった。

 昨日駅前に用事があり、杖をついて歩き始めたところ、駅の方からレジ袋を下げて歩いてくるご主人を見かけたので、思い切って声をかけた。

 「最近奥様をお見掛けしませんがいかがされました」と聞くと、突然の声掛けに驚きもあったようだが、「17日に亡くなりました」と答えてくれた。3月か4月か聞かなかった。

 高齢になってがんになったら下手に医者にかからないほうがいいということを何度も話していた。手術や薬を飲まなければもっと生きられたのではないかと言う。
 
 入院した近所の独立行政法人である医療機関の不適切な対応にもずいぶん不愉快な思いをしたようだ。

 近所に奥さんを亡くした知人は何人もいる。妻を亡くしたつらさや悲しむ姿が想像できるが、このご主人には想像できない。立派過ぎるのである。

 こういう雰囲気の人はどういうふうに悲しむのだろうか。部屋の中でただじっと耐えているのではないか。

 あれほど仲の良さそうな奥さんだった。一人住まい。つらいだろうなと思う。

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