行楽のシーズンとなった

つぶやき

 サザエさんの家の庭先で、出入りの職人たちが談笑している。

 「オラア、一度こうらくというところに行ってみてぇ」
 「?」
 「だって春のこうらく、秋のこうらくと言うじゃねぇか」
  (みんな笑いだす)
 「まあまあ皆さん、お話がはずんでますこと」
 とフネさんが、ニコニコと声をかけながらお茶を運んでくる。

 確かこんな漫画であったと思うが、職人たちの談笑の雰囲気を4コマで切り取っていた。

 昔の行楽はバスであった。今はバスツァーと言うが、昔は遊覧バスと言った。
 マイカーが普及してもバスツァーは人気らしい。シャインマスカットツァーともなれば予約が取れないという。

 高齢者には運転はきついし、なによりバスに乗っていればどこかに連れて行ってくれるというのがありがたい。

 知らない人と顔見知りになり、会釈をしているうちに話をすることもあるのが楽しいと言えば楽しいし、あの人はなんであんなに愛想が悪いのだろうと、棘でも刺さったような不愉快を感じることもある。

 とはいえ今のところ車の運転ができるから、滅多にバスに乗ることはない。
 何年か前、長野県飯田市の、渓谷の紅葉を見に1泊旅行をした限りである。
 その時のバスガイドさんが、「日本で一番速いバスはどこでしょう」という。
 乗客から答えは出ず、「都バス(とばす)」です、とガイドさんが自分で答えていた。

 はとバスというのも行楽バスということでいいのだろうか。
 一度乗ったことがあるが、わざわざ乗りに行きことはないはずだから、大手町あたりに行ったときに、はとバスの発着場を見て、「一度乗ってみようか」と、ということになったのだと思う。

 確か「大江戸忠臣蔵ツアー」とかいうコースであった。
 江戸城松の廊下跡、泉岳寺、瑤泉院ゆかりの南部坂、そして両国吉良邸などがコース。

 バスが走り出すと、ガイドさんの他に名も知らない落語家がマイクを握ってしゃべり始めた。

 忠臣蔵の話をするのかと思っていたら自分のことばかりである。「今度どこの寄席に出る」、「今度本を出すことになった」。
 コンニャロー、いい加減にしろ、と思ったが我慢した。目指すは怨敵本所松坂町、吉良上野介の屋敷であった。

 しかし江戸東京の名店といわれる料理屋の昼食は、家内が首をかしげるほど最悪。それに相変わらずの落語家の下品な饒舌に堪忍袋の緒が切れた。
 はとバスに文句を言うのではなく、はとバスから降りることにした。

 ガイドさんがしきりになだめるが、ひとしきり、あんな落語家の話を聞くためにこのバスに乗ったのではない、と告げ、無事本懐を遂げることなく、赤穂浪士が渡ることのできなかった両国橋を渡って帰った。

 高齢者たちが慌てるように行楽地に向かう。元気なうちに思い出を作らねば、ということなのか。
 確かに高齢者は、行楽に行っても後楽の余裕はない。

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