岸田首相が母校早稲田大学の講演で、「受験で失敗を繰り返し、早大に入学した」と述べたことを伝える某週刊誌の記事がネット上に掲載されていた。
その記事は続いて「私学の雄として誇りを持つ早大生や早大OBから反発を招いた」と書いている。
確かに早稲田入学は岸田さんにとって不本意であったようだ。
人生何度失敗しても、いい意味での〝まさか〟(早稲田を出ても総理大臣になれるということらしい)を信じて努力することが大事だ、ということも述べたらしいが、それを聞く早大生も愉快ではないだろう。
しかし岸田さんは早稲田を誇りにしているということではない。本音というものは隠しようもないことである。
同じ私学出身の安倍前首相もいろいろと屈辱を感じたはずである。その反動が東大出身の官僚を差し置いての官邸主導だったのかもしれない。
中学の同級生で学年トップクラスにいた友人が、学区トップの都立高を受験したが落ちてしまった。
通常は他の都立高にはいけないはずだが、学区最下位の都立高に進むことになった。成績優秀者にはそういう扱いが認められたらしい。
卒業文集にその悔しさを書き、大学受験では絶対に失敗しないと述べていた。
3年後東大と早稲田の理工学部に合格した。東大の発表前に、早稲田の入学金を払わなかった。他の同級生たちとびっくりしたものだった。
しかしそうであるならどうして早稲田を受けたのだろうかと疑問に思った。東大に落ちたら早稲田に行くということでもなかったと思う。
彼の家は早稲田大学の正門通りで定食屋さんをやっていた。彼に訳を聞いたことがある。子供の頃、早稲田の学生になりたいと思っていたので受験した、ということだった。早稲田はそれで十分、ということらしい。
黒柳徹子さんが、「毎年年末の第九は私の父が始めたことなんです」、と言ったらしい。黒柳さんのお父さんは、NHKオーケストラのコンサートマスターを戦後間もないころつとめていたことがある。
「徹子の部屋」にはときどきクラシック音楽の関係者が出演するが、その際徹子さんは「私の父がNHK交響楽団のコンマスをしていまして」ということを必ず言う。
それはそれでいいのだが、「第九は父が始めたことなんです」と言っていいものなのか。ちょっと言い過ぎではないかと思う。
黒柳さんは「高尚なもの」と「低俗なもの」両者に対して、実に見事に対応する。
世界的な音楽家に対しても、胸の大きさだけで人気の出たような女性タレントに対しても、上手に対話をしている。
以前、すぐに芸能界から消えてしまうような若い軽薄な女性タレントが徹子の部屋に出演したことがある。その時はさすがに我慢の限界ではなかったか、と思うような彼女のいらだちを見たことがある。
黒柳さんは高尚な人である。彼女が生涯唯一披露した恋人は誰だったか。そんじょそこらの男ではない。世界一流のブランド的人物であった。
腕を組んで、ホテルの宿泊階から階段を降りてくる二人の姿を写真に撮らさせた。当然雑誌に掲載された。
「私の彼氏を見てください。ちんけな日本人じゃないわよ」と自慢げに見えた。
40代後半のころではなかったか。今年90歳になられる。芸能界で自分を保ちつつの活躍である。大した人である。(了)
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