立花隆さんが亡くなられたのは2021年4月。80歳だった。
64歳のときに膀胱がんを発症されていたが、死因は急性冠症候群。普通の言い方をすれば心臓発作ということらしい。
立花さんの著作は、田中角栄研究も含めて一冊も読んでいないが、何年か前、新聞に掲載された短い論評を読んで、その文章の緻密さに驚いたことがある。なにしろすごい文章であった。
がんを発症されて以来、がんというものを見極めようとしたのか、がんに関する発言を見かけるようになった。
こういう話を知った。
立花さんは、NHKスペシャル「立花隆思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」(2009年放送)の制作に携わるが、その企画書を見て気に入らず、降りると言い始めた。
立花さんは企画者であるNHKのディレクター岡田朋敏に向かい、「あなたね、がんというものが治せると本気で思ってるの?」と言い、がん治療の限界を説く田中秀一の著書『がん治療の常識、非常識』を示し、これを読んで出直して来いと命じた。
岡田氏は著書を読んだのちに、「がんがどうして克服できないかを徹底して取材しましょう」と伝え、立花を再度テーブルに着かせた、という話である。
立花さんが、「がんというものが治せると本気で思ってるの?」と言う。私にすればつらい言葉である。
立花さんの次の言葉も心に刺さる。
「人生というのは、いつでも予期せぬことに満ち満ちている。計画など立てたところで、計画通りの人生など生きられるはずがないのである。もし自分の計画通りの人生を生きた人がいるとしたら、それはたぶん、つまらない人生を生きた人なのだ…(略)」
私は計画通りの人生を生きてきた。計画というと聞こえはいいが正確にはそうではなく、こうなればなんとか食べていけると思うことを実行した、ということである。
確かにつまらない人生であった。
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