生きてゆくのがつらい日は

つぶやき

 台風7号は、紀伊半島に上陸し、関西、北陸を縦断するコースを取りそうである。
 関東からすれば西にずれたことになる。関東に住む者としては多少安堵の気になるが、直撃を受ける人達の被害を思うと喜んではいけないことである。

 海水温が高いため勢力は衰えることなく上陸するようだ。まだ8月の半ば。今年はどれだけの台風が日本を襲うのだろうか。

 蝉の死骸を玄関周りの白いタイルにいくつも見かける。蝉は仰向けになって死ぬそうだ。

 昆虫は硬直すると脚が縮まり関節が曲がる。そのため、地面に体を支えていることができなくなり、ひっくり返ってしまう。昆虫も寿命は脚から来るらしい。

 今年は蝉の鳴き声をずいぶん聞いた。ひと夏のわずかな期間を生きて死んでいく。哀れな命である。

 哀れな命から思い出したわけではないが、恍惚の人という小説があった。有吉佐和子さんが昭和47年に発表し、翌年には森繁久彌さんの主演で映画にもなった。

 小説を読んではいないが、何年か後にテレビで放送されたときの森繁さんの記憶がある。

 今でいう認知症を取り上げた小説として大変な話題になった。この本の出版社はこの売り上げによってビルを新築したらしい。

 この当時の男性の平均寿命は69歳、女性は74歳。65歳以上の高齢者が占める割合は7%くらいであったというが、現在は29%に近い。

 小説における茂造という老人は、85歳くらいの設定である。当時としては長命ということになる。

 ストーリーをここに書く気はない。なんともやりきれない話である。
 ちゃんと生きてきた人間が人生の終わりに壊れていく。そんなのひどいじゃないかと言いたいが、どうしようもない。わが身に起きないことを祈るだけである。

 ハワイマウイ島の山火事の被害が大きい。今日の時点で80人が死亡しているという。ある中年の男性が、「すべてを失ってしまった、家も妻も愛犬も」、とテレビで語っていた。呆然自失という表情であった。

 東日本大震災の時、我が家に帰ってきた男性が跡形もない家を見て、妻や子供たちが見当たらない、と呆然と立ちすくんでいた。
 生きることはなんと悲しいことなのか。

 明日は2ヵ月に一度のがん検診である。1年半近く担当医であった研修医は横須賀に転属になった。転属の前に私の病状について聞いておけばよかったと思うが、聞いても何にも教えてくれなかったかもしれない。

 今度の担当医も若い研修医だと思う。治ったようで治っていない。何もなくてもあと4年近く病院通いをしなければならない。がんとは本当に厄介なものである。

 「生きてゆくのが つらい日は おまえと酒があればいい」
 別に生きていくのが辛いわけではないが、こんな歌が頭に浮かんだ。
 おまえと酒で、生きてゆくつらさを忘れると言うなら、人生一番いい時期を過ごしているということである。

 生きてゆくのがつらい日に、おまえと酒がないのが人生において一番つらいことである。

 恍惚の人茂造さんの痴呆は、妻の死亡から始まったことになっている。
 有難いことに私にはまだ「おまえと酒がある」。多分、人生で一番いい時期を過ごしていると思う。(了)

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