中学を卒業して文選工(活字拾い)になったが、その当時はまだ文選工はどこの印刷会社でも引く手あまたの技術者(?)であった。
夜間大学の3年生の時、大学のオーケストラに入部するため、7年務めた印刷会社を退職した。しかし家にお金を入れないわけにはいかず、人づてに出来高払いの印刷会社があることを知り、そこで渡り職人のように働いた。
私は仕事が早かったから、1箱幾らという単位で賃金が支払われる文選の仕事は、月の半分くらい行っただけで、以前勤めていた印刷会社の月給より高額な収入を得ることができた。
高齢者の職人もいて、「あんたのような若いもんが、よくこんな仕事を覚えたものだ」と感心された。手に職を付けるということは大したものだと思ったものである。
活版印刷はそれから間もなくオフセット印刷とかいう技術が主流になり、今では過去のものとなってしまった。
活版印刷について書くのが目的ではなく、この仕事場で職人さんたちがラジオを聴きながら仕事をしていたことを書きたかったのである。
文選の仕事は、左手に文選箱と原稿を持ち、活字棚の前に立って一日活字を拾う仕事であるから単調である。
原稿を読みながらと言っても、もちろん思考を要する作業ではなく、目にした文字を活字に拾い換えるだけのことである。
その頃、森進一の「港町ブルース」という歌が流行っていて、職人たちのラジオからよく流れていた。
この歌は森進一しか歌えない歌である。
短いフレーズが6番まで続く歌であるが、起承転結がなく、それがとても聴きやすかった。私の好きな歌謡曲のひとつである。
最後の5番と6番の歌詞は鹿児島を歌ったものであるが、記載したのは5番の歌詞である。
呼んでとどかぬ人の名を
こぼれた酒と指で書く
海に涙の ああ愚痴ばかり
港、別府 長崎 枕崎
台風10号はこの地方を襲った。枕崎では瞬間風速51メートルを記録している。皆さんの無事を祈らずにはいられない。
こんな書き方は不謹慎であるが、枕崎が鹿児島であることは、「港町ブルース」から知ったのである。
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