マンションがこんなに数多くなかった時代、人口密度は低かったはずである。
かつて近所のマンションに住んでいたこともあり、友人ということでも知り合いということでもない顔見知りという程度の知人が、この数年の間に何拾人も亡くなっている。
こんなに狭い地域の中で、こんなに多くの人の死を知るのも、人口密度が高いせいからだ、と思う。
新興住宅地であったから、開発と共に同年代の人が住む町であった。四捨五入すれば50年という時間が過ぎたのであるから、亡くなる人も多いし、病気の人も多い。
「イャーみんな歳とったな」と思うが、歳をとったということでは言い足りず、みんな悲惨と言うような年寄りになった。
高齢者は65歳からというが、そんな高齢者は一人もいない。高齢者の平均年齢80歳をとっくに超えている町である。その80歳を超える人たちが8割近くいるのではないかと思われる。
我が町に限らず、かつてこれほどの高齢者の町はなかったのではないか。マンションという高密度な住宅形態のせいである。
高齢者が多く住むマンションに若者は入りたがらない。生理的にイヤだということもあるだろうが、マンション火災やガス爆発など危険である。
先日久しぶりに、私より10歳以上も上の人を見かけた。90歳になったのだろうか。大柄な人だったが痩せこけて、体が曲がっていた。
夫婦そろって性格の悪かった女房が我が家の前を歩いていた。夫は何年か前に亡くなっている。
他人に散々悪さをしてきた人がどうやって生きているのだろうか。あんな悪かった人がまだ生きている。そんなことを思わせるように力なく歩いていた。
仕事もせず、1日中タバコの煙をそこら中にまき散らして歩いている50もとっくに過ぎたバカ息子の母親が、そういう息子の親だからそうなのか、年をとっても近所中の嫌われ者として平気で生きている。
現役時代はドイツの日本大使館に勤めていたというご主人の奥さんがこのところ杖を使っている。ご主人がいたわるように一緒に歩いていた。
ご主人が脳梗塞を発症した向かいの家の玄関は、この数ヶ月開くことがない。
なにか役に立つことがあったらと思うが、そんな付き合いは互いにしていなかった。
かつて駅に向かう人が多かった我が家の前も、人の行き来がわずかになった。
家が朽ち果てるとはよく聞くが、町が朽ち果てる、ということになりつつある。
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