岸田首相が襲われた。何事もなく無事であったのは幸いだった。昨年は安倍総理(以下安倍さんとする)が若い青年に狙撃され命を落とした。なにか思いつめたものがあれば人を殺してしまう。日本だけのことではない。
戦後、自分のやりたいことをやった総理大臣はほとんどいなかったと思う。中曽根さんも小泉さんも特定の政治課題については取り組んだが、社会のあり方を変えようとすることまではやっていない。
安倍さんは日本の総理大臣の内、最も長い期間その地位にあった人である。権力闘争の中で長期間権力を保持することはそれだけの実力があるということを示すものであろう。
もちろん時代的背景とか幸運ということもあるだろうが、時代を自分に引き寄せる、ということも実力のなせるものである。
安倍さんの祖父は岸信介氏である。自主憲法制定を主張した人であり、60年安保闘争の時の総理大臣でもある。
安倍さんは東大の出身ではない。祖父も、父の安倍晋太郎氏も東大である。
私立大学の出身ということが安倍さんにとって唯一のコンプレックスと言われている。しかし東大に行けなかった、ということではないかもしれない。
優秀な一貫校の出身である。東大に行かなかったから、リベラルな教育に接することなく、保守的な自分の信念を形成したのかもしれない。
やはり戦争に敗けたということの影響は大きい。もっとうまい戦争の負け方というものがあったのではないだろうか。
あれほどユダヤ人を虐殺したドイツはどうして評価されるのか。ヒトラー一人に責任を負わせてすべて済んだ、というこになっているようである。
戦争に負けて日本はアイデンディティを失った。何もかもアメリカの言う通りになってしまった。
平和憲法なるものは大人に媚びる優等生の作文であり、日米安保協定と言うのは日本の安全保障ではなく、アメリカにとっての日本の軍事基地化のことではないか。
安倍さんはこのことがどうしても我慢できなかったのだ思う。
政治は、日本という国をどうするか、ということだと思うが、安倍さんは日本国をどうするかを考えた人である。
戦争前には国体ということが言われた。国民体育大会のことではない。なにより国のあり方ということが大事だとされた時代があった。
安倍さんの考えたことは日本を強い国にすることである。しかしそうするには長い間平和ボケをしてきた国民の反発を受ける。
歴代の総理大臣はそのことを恐れ、国民の機嫌とりに終始した。
しかし安倍さんはなんとか日本を強い国にしたいと考えた人であった。国民の機嫌など取ることはない。国民などというものは、食べていけさえすればいいだけで、国のことなど何も考えていない。
安倍さんは異次元の経済政策で景気を回復し、株価を上げた。それまで不景気にあえいでいた社会に活気を取り戻した。
強い日本にするために憲法改正の主張を日常化し、自衛隊の海外派兵を可能にした。
共謀罪、特定秘密保護法などの採決にも成功した。
なによりも中国に対抗できる国でなければならない。そのために、あのトランプの屈辱に耐えて友好関係を維持した。安倍さんほど信念に基づいて行動した政治家はいないのではないか。
政治家はビジョンを語るものである。安倍さんは強い日本にすることが目的であった。そのためには「丁寧に説明する」つもりはあっても暇がなかったのであろう。
「私や妻が関係していたということになれば首相も国会議員も辞める」
森友問題や加計問題は、天下国家を論ずる政治においては、大きな意味を持たなかったということであろう。
「こんな人たちに、私たちは敗けるわけにはいかない」という発言。誰しも自分を否定する人間に対して対抗心を表すことは必要な事ではないか。
昨年、若者の凶弾に倒れた。
安倍さんを気の毒に思う。政治信条のために倒れたのではないからである。 (了)
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