妻を亡くす経験はしたくない

つぶやき

 NHKBS「妻亡きあと」を観る。
 
 若い頃からテレビなどで見ていた近藤正臣という役者さんの83歳の今。

 2年ほど前、56年連れ添った最愛の妻を亡くす。

 妻が愛した岐阜県郡上八幡での一人暮らし。その生活をテレビが追う。

 自然と清流と町の人々。それに1匹の猫と郡上踊り。亡き妻のことが言葉に多いが、悲しみを語ることはない。

 妻に先立たれた高齢者の一人暮らし。どう取材したってそれだけのことである。

 近藤さんは当初取材を拒否されたらしい。多分取材者の意図を読み取ったからであろう。

 妻を亡くした悲しみは画面にはない。それをあえて避けたように思える。ただ、「いない人の気配」は映し出されている。

 1時間番組の終了近く、「もうちょっと生きてみようかと思う。…軽くね。…一生懸命とかじゃなくて」と近藤さんはたんたんと語る。
  
 撮影期間は画面からすると夏から正月。この近藤さんの言葉はいつ語られたものなのだろうか。

 どうやらこの近藤さんの言葉を、このドキュメンタリーのメインしたかったようである。

 番組ディレクターは、ストーリーではなく事実そのものを伝えたい、と言っていたが、ストーリーになっている。

 「一生懸命とかじゃなくて軽くね」という言葉は意外性のある言葉。高齢者の一人住まい。軽く生きていけるならこんなにいいことはない。

 妻を亡くした悲しみはストーリーにならない。妻を亡くした悲しみは、他人に伝えるのものではなく、妻を亡くした者しか分からない。それは誰にもあり得ることである。近藤さんは悲しみを語らなかった。

 番組ディレクターは、「高齢で一人暮らしをしている方々への様々なヒントがもらえるのではないか」などということを言っている。

 受信料を取るNHKであるから、「ためになる」番組でなければ、という意識があるようだ。
 
 妻を亡くした男が生きていくのはやせ我慢しかない。
 近藤さんのやせ我慢が描かれていればいい番組であったと思ったが、あれは近藤さんのやせ我慢であったのかもしれない。
 さすが名優と言うべきか。多分最後の出演になると思われる番組で見事にやせ我慢を演じた。

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