無言館には4,5年前に訪ねたことがあるが、裸婦の絵とその絵のモデルになった女性が書いた感想文ノートのことには気がつかなかった。
先日、新聞のコラム欄にこの感想文ノートの一部が掲載されていた。強く惹かれるものがあり、調べてみて感想文の全文を読むことができた。
画学生とモデルの恋。
生きて帰ってこの絵を完成させるという言葉を残して恋人は戦地に向かい、そして戦死する。女性は生涯結婚せず、戦後の50年を生きて、無言館でこの絵に再会する。
私きました。とうとうここへ来ました。
あなたが私を描いてくれた あの夏は・・・
あの夏は・・・私の心の中で、今も あの夏のままなんです。
女性の言葉に感動したと軽々しく言ってはいけないと思った。
女性は名乗らず、ただ今は亡き恋人に思いを伝えただけである。
名前は他人のためにある。恋人に名乗る必要はない。その思いを読む者が勝手に解釈してはいけない。
テレビでドラマ化されたらしいが、この言葉を越える映像は作れなかったのではないだろうか。
この感想文が書かれてから25年近い。
無言館のあの空気の中に、女性の思いはずっと漂っているはずである。この思いに心を寄せるのも、無言しかない。(了)
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