夏といえばビール。ビールといえばビアガーデンであった。
都心に出ることもなく、仕事帰りに一杯ということもなくなったから、今でもビアガーデンはあるのだろうかと思ったりするが、無くなったということはないだろう。
だが、ひところより「夏といえばビアガーデン」という印象は薄くなったようだ。
昭和40年代高度成長華やかな頃、デパートの屋上から、ちょっとしたビルの屋上まで、どこもかしこもビアガーデンだらけであった。
提灯が屋上の金網に沿って取り付けられていて、最盛期には舞台でハワイアンなどが演奏されていた。
田舎の夏祭りに、どことも分からない場末のリゾートが一緒くたになっていたような感じである。。
サラリーマンたちにとって居酒屋は、上司に対する恨みつらみの場となるが、ビアガーデンはとにかくみんな、なんでもいいからやれやれという場であった。
ビアガーデンの始まりなどについて調べれば、たぶん諸説乱立のことだと思うが、東京では昭和27年に、銀座のビアホールがビルの屋上をルーフガーデンと称して開業したのが第1号とされている。
私はビアガーデンで飲んだ記憶はあまりない。
暑さの残る夏の夕暮れに、心地いい風と共に生ビールを飲むのだから、最高のシチュエーションのはずだが、どうも私は好きではなかった。
あのうす暗さと、にわか造りの店の喧騒がイヤだったようだ。同じ喧騒であっても、ビアホールには、当然のことだが昔ながらの格調があった。
国民的合意のように、「ビールのつまみは枝豆」とされているが、これに対して敢然と異を唱えた人がいる。我が敬愛する東海林さだお氏である。ビールと枝豆は絶対に合わないと主張されているのである。
東海林氏はビールと串カツの取り合わせを好む。
つまりビールは本場ドイツではソーセージ、イギリスではフィッシュ&チップス、アメリカではピザもしくはフライドチキンというように、濃厚、こってり、油っ気。これをつまみとするのが、泡立つ飲み物であるビールの基本だと東海林氏は納得しているのである。
「枝豆ではせっかくのビールのうまさを味わうことができない」
私は習慣的に枝豆をつまみにしてビールを飲んでいるが、なにをいまさらと言われるかもしれないが、確かにビールに合っているとは言えない。
東海林さんが言うように、ビールにはこってり味のつまみがいいと思っているのだが、だが反論ではなく、私にはちょっと重い。ビールには焼きそばが合うと思う。
仕事をしていた頃の日曜日、ソース焼きそばを作って、「昼間だけど焼きそばにはビールが合うんだ」と女房に言い訳しながら飲むビールはとても美味かった。
ビールのことで岩城宏之さんを思い出す。若い頃ドイツ留学をされていたから、ビールについては詳しいようだ。缶ビールのおいしい飲み方をテレビで話されていた。その頃50代くらいだったのだろうか。
缶ビールは缶から直接飲むものではなく、コップに注いで飲むものだという。それも缶を真っ逆さまにして、意気よいよく注ぎ込み、十分に泡をたたせ、泡が少しおさまったところで一気に飲むという。
岩城さんがあの時、自ら注いだビールを飲みほしたときの、はにかんだような笑顔がとても懐かしい。以来私の飲み方はずっと岩城流である。(了)
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