おっちょこちょい、という面白い発音の言葉がある。落語などでよく聞く言葉であるし、語感からしてからも江戸っ子のローカルな言葉なのかと思うが、そのことについてネットに記載はなく、本まで調べて書くことでもないので、そのことはそのままにして先に書き進めることにした。
意味は「落ち着きがなく、よく考えずに物事を行うさまや人」とある。
説明文には「軽率にものごとを考え、行動すること」とか「内容をしっかり理解をする前に、早とちりをして行動に移してしまうこと」というようなことが書かれている。
なるほどと思う。「おっちょこちょいな人の特徴」などと、項目もあったが、ここに書くことのことでもない。
まさかと思ったが語源が書いてある。「おっ」は驚くさま。「ちょこ」は、ちょこまかとせわしなく動いているさま。 「ちょい」は簡単にできるさま。 この3つが合わさり、「おっちょこちょい」という言葉が生まれました、というのである。
本当かなあ、と思う。とってつけたような説明じゃないかと、そのまま信用する気にもならない。そんな面倒なことではなくて、「このバカ、とんま、まぬけ、あほ」と人を叱ったり注意しているとき、言葉のはずみで出たようなものではないだろうか。
バカ、まぬけ、などでは、言っていることがストレート過ぎるが、おっちょこちょいは、バカと言われるよりはダメージが少なくてまだいい。
そんなことを考えているうちに、おっちょこちょいに漢字はないのではないかと思った。バカ、とんま、まぬけ、あほにはすべて漢字ある。あほにまで阿保という漢字があるのである。
めちゃくちゃというめちゃくちゃな事にも、滅茶苦茶という漢字がある。なぜおっちょこちょいに漢字がないのか。やはり思いついてパーッと口から出た言葉ではないかと思う。
私は子供の頃、母親や周囲の大人からよく「この子はおっちょこちょいだから」と言われた。言われた本人はどういう意味に聞いていたのだろうかと思い出してみると、なにか忘れたとか、なにか勘違いしていたとか、そんなとき言われたような気がする。
先日これこそおっちょこちょいと思うことがあった。
10年ぶりかで近所の知人と家の玄関先でばったり会った。私はこの人が好きではない。イヤな奴と思っている。しかしばったり出くわしたとき思わず「元気ですか」と声をかけてしまった。
なぜ声をかけてしまったのだろう。もともと仲がいいわけではないのだから無視すればよかったじゃないか。目と目が合って無視すれば、無視したことがはっきりしてよかったじゃないか、と思った。ダメだな俺は、おっちょこちょいだなと思った。
おっちょこちょいの意味には「お人好し」が含まれるのである。しかしこのお人好しは褒め言葉ではない。かと言って人をけなす言葉でもない。
「あの人はお人好しだからねー」と人が言うときは「抜けたところがある人だからねー」という意味を込めて、ため息と一緒に口にするものである。
抜けたところがあるという人は、計算高いところがないのである。というより計算ができないのである。身構えていないのである。身構えていなくてはと思っているのだが、咄嗟の時に忘れてしまうのである。
おっちょこちょいの人間が、用意周到、深謀深慮の人たちに交じって生きていくことは無理である。
用意周到、深謀深慮を非難しているわけではない。社会はそういう人達によって成り立っている部分がほとんどである。
しかし、人に気前よくおごる人を、信じられない、と言う人がノーマルかもしれないが、人におごることをしない人を、信じられない、と言う人もいるのである。
世の中、ノーマルな人の方が上手い生き方をしているように見える。人におごってしまう人は、いい人と思われる前に、おっちょこちょいと思われるようである。そういうことではないんだがなあ、ということをいつも思って生きてきた。
人生大概のことは終わってしまった。おっちょこちょいを何とかしたいと思っているが、おっちょこちょいだからいつまでもたっても直せない。(了)
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